今までビシを海神様に捧げ(なくした)たことはある。
しかしその原因は結び目がほどけたり、糸が擦れていて切れたり、フグにミチイトを噛みきられたり、結んでないのに投入したりと至極まっとうな理由である。
そもそも根掛りする事自体が珍しい。
が、起きてしまったことを嘆いていても始まらない。
潮止まりの時刻も刻々と近付いてきている。
私は気を取り直して仕掛けを組み直し、改めて投入した。
すっかり痩せてしまったスプールから落下と潮流の影響で凄い速度で糸が吐き出されていく。

また、タナ取りしにくそうだ……。


復旧一投目も不発。
潮止まりまで間がないが、時合いとしては大アジが出る頃合いである。
仕掛けを上げ仕切り直そうと巻き上げスイッチを入れる。
糸の色が変わり、そろそろ巻ききる頃、何気無くカウンターを見るとマイナスを指している。
気付いた次の瞬間、海面からビシが勢いよく飛び出し、穂先まで一気に持ち上がった。
0.5Kgのビシが190m/分の速度で穂先に当たるのだから、高い剛性を誇るビシ竿とてひとたまりもない。
鈍く乾いた音と共に穂先が折れてしまった。
リールの電源リセットをせずに0セットしなかったのが原因であった。