対決!三宅の磯
 さて、釣行できることになったのだが、これが午後7時過ぎである。エサとなるオキアミを入手しなければ、釣りに行くことも出来ない。しかも釣りをやっていられる時間は朝食後の午前7時からみんなが昼食を摂りに宿舎に戻ってくる12時まで。そしてオキアミをおいている店が開くのが午前8時30分である。店が開いてオキアミを買えばよいというものではない。何故ならオキアミは3kgのブロックとなって硬く凍らせてある。溶かし網(タマネギなどが入っているような、目の細かい網。)に入れて、海水に浸けておいたとしても解凍に1時間はかかるだろう。そしたら釣っている時間などなくなってしまう。さて、どうするか・・・。これがちゃんと方法があるのだ。食堂で買う、のである。
 何しろ、2月まで商店などほとんど営業していなかったのである。そして娯楽が全くなかったのである。そこで平成16年の11月に三宅村災害対策本部が娯楽の一環として釣りを認可したのである。もちろん、非常事態地域であるから前日20時までに釣行の届け出、時間や場所の制限、単独釣行の不可、ガスマスク・IDカカード・ライフジャケットの所持・着用義務など、細かい規定を設けての実施となったようである。無論、私のように島に来る前から道具を用意・持参するような不埒なやつは少なかったろう。リクリエーション事業実施に伴い、釣りたくても道具のない釣りキチ向けに、災害対策本部だか三宅島観光協会だかが道具を用意。希望者に貸し出していたようだ。
 そして、島内に散らばっている防災作業関係者の利便性を考え、各々の宿舎の食堂でエサとなるオキアミのブロックが大・中(LLサイズのオキアミ・3kgブロックが大。1kgブロックが中。小はパック物)の2サイズ用意されたのである。値段は島内一律価格でそれぞれ税込み1,050円と550円である。内地の量販店よりも、気持ち高い程度である。統一価格では、共産主義なのでは?とか、独占禁止法違反なのでは?などと言ってはいけない。いくら三宅島が離島で、絶海の孤島であってもオキアミは獲れない(主に南氷洋で獲れる)し、獲る人もいない。全て内地から船で運んでくるので運賃がかかる。しかも釣りエサになるオキアミは冷凍のブロックだから割高な運賃となる。それに三宅島は、あの石原慎太郎東京都知事が牛耳る島である。そんなコトを言ったら「イヤなら、やらなきゃイイだろうに。別にこっちが”やってください”って頼んでるんじゃないんだ。イヤなら他で買えばいい。」と言われてお終いだろう。私は素直に隣の宿舎用食堂に足を運び、3kgブロックのオキアミを購入した。
 なぜ隣の食堂なのかというと、私のいる宿舎は何事もなければ『リフレッシュふるさとの湯』という、島民や三宅島を訪れた観光客向けの公共の温泉・宿泊施設で、防災関係者が宿泊しているのは増築したプレハブの建物なのである。しかし、もともとあったレストランスペースだけでは宿泊している防災関係者を裁ききれず、先に作られた本館から100mほど離れた場所に新館(造りは本館と全く同じ。私はここにいる。)・食堂が増設されたが、近くなんだからわざわざ(オキアミを)扱うこともないだろうと、本館食堂でのみの扱いとなったのである。
 それを各集魚材と一緒にバッカンに入れて、クーラーバックと共に背負子に縛り付ければ、一応の準備は完了である。これでロッドケースを持っていけば釣りはできる。そこまで用意をしてトイレに行こうと部屋を出ると、早上がりして釣行した他の会社の人が帰ってきたようで、魚が入ったクーラーを車から降ろしているのが見えた。私はちょいと見せてもらおうと、そこに寄って行った。クーラーから取り出されたそれは、50cmに届こうかと言う口太メジナである。
 どこで仕留めたと訊くと、なんと宿舎のウラの磯。宿舎の玄関を出て、歩いても10分ほどの場所だという。私は参考にしようとハリをみせてもらった。するとデカイ!そして太い!!グレ針の9号にナイロン3号ハリスが結んである。沖釣り(船に乗って沖合いで魚を釣ること。)じゃあるまいし、いくらスレていないからって、三宅島の魚ってこんなのに掛かるくらいバカなのか?
「これでアタリはどのくらいあったんですか?」
「3時過ぎから始めて5時過ぎまでやってたけど、これだけだったね。今日は食いが悪かったよ。」
 そりゃそうだろう。こんなブッ太いハリスで警戒心の強いメジナが食ってきたこと自体が奇跡である。バカはコイツの方だった。部屋に戻った私は、いつものとおりにナイロン1.5号と2号の糸をグレ針の6・7・8号に結んだ。内地で結んできたナイロン1号・グレ針6号は、食い渋りの時に使う用に準備をした。なんで6号かというと、磯釣りでは私が足元にも及ばない、釣り仲間のS司氏とS木氏からの薫陶を受けた結果である。
 この二人、基本的にバカである。日常的に何かしらヘタレをカマしてくれるのだが、磯の上で竿を握り、ウキフカセ(魚がかかったらウキが沈むので、それを合図に合わせる釣り方。釣りの最も基本的な仕掛け。)釣りをしているときだけはカッコイイ。やたら釣るのであるが、各々の奥さんからは「ウチのダンナは釣りに行っても釣れない。釣ってもロクな魚を持ってこない。」と蔑まれている。それでもこの二人、磯のウキフカセに関しては私の及ぶところではない。私が二人に沖釣りを仕込んだお返しにと、ウキフカセについて様々なアドバイスをしてくれたのである。

 翌朝、いつものように午前6時半に朝食を摂り、雨ガッパを着てフローティングベストを羽織り、荷物と長靴をもってさて行きましょ、としたときである。肝心なものがないことに気づいた。
 常時携帯が義務付けられているガスマスクがないのである。前日に現場に置いて帰った4トンダンプの中に置きっぱなしで忘れてきたのである。この日はガスは漂って来そうにない風向き(穏やかな西風)だったが、都の職員がガスマスクの携帯を確認するパトロールに廻っている。現場作業中でも携帯していないと注意を受けるのに、休暇で釣行とはいえ携帯していないとヤバイ。
 先週の週末には内地にいる釣り人が、竹芝桟橋でガスマスクを買い求めて船に乗り、我々防災関係者のように災害復興のためではなく、単に釣りをするためだけに三宅島に渡ってきて、ガスマスクを持ってりゃいいんだろうとばかりに、高濃度地区の立入禁止区域で釣りをしているのを発見されて都のパトロールから厳重注意を受けた。そしてそれを『何を考えているんだ?』とばかりに新聞やテレビが叩いていた。私は内地で釣りをするときと全く変わらないカッコウをしているのである。防災関係者である私がガスマスクを携帯していないとバレたら厳重注意どころではない。ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられ、条例違反と不謹慎のかどで島外退去をくらう恐れもある。私は仕方なく現場までガスマスクを取りに行くハメになった。
 宿舎から現場までは約8kmの道のり。時間にして15分程度である。現場で私のカッコウを見た防球ネット屋さんの職人さんたちや同僚達から「たくさん釣ってきて下さいね。」「今夜は刺身でイッパイかぁ。ハラ、空かせておかなきゃな。」「今日は早上がりで宴会だ。」などと勝手な言葉を口にする。人の気も知らないで、かなりのプレッシャーを与えてくれる。私はその言葉を背中に、阿古の磯へと引き返した。
 一周道路から『ふるさとの湯』の看板を左折して、白い建物の角を曲がれば宿舎、直進すれば目指す磯である。この磯には通称『めがね岩』と呼ばれる観光物件があり、海面から足場の高さが1〜15mと、比較的高い。釣った魚の取り込みを考えて5m前後の足場を探し、釣り座を構えた。
 風は西からの季節風が穏やかに吹いている。とりあえずは釣りに影響のない程度である。そのおかげで波はいつも現場に向かうときに見る波に比べれば穏やかなもんである。波高2mといったところか。それでも沖のほうは風が強いのか、うねりがやや大きい。時折、白い波が立ち上がる。波のタイミングを見計らい、コマセを作るためにヒモ付きバケツを投入して海水を汲み上げる。付けエサ用としてブロックの外側にある、既に溶けたオキアミを一掴み別に分け、残った分を蹴りほぐしてバッカンに入れて『湧きグレ遠投500』『グレ活性起爆剤』『さなぎ粉』『粉イワシ』を投入、汲み上げた海水を注ぎ、よく混ぜる。私のコマセは混ぜ物が多い。そして沖釣りがメインの私は沖釣りの基本である『コマセはガンガン撒け』をやってしまう性質なので、これをガンガン撒く。効果は抜群だが、フグやウマズラといった餌取りの外道(狙った魚ではない魚。)も呼び寄せてしまう。故に前出のS司氏などは「Kロちゃんのそれ、あんまり沖に投げないで。」としかめっ面で言うのである。
 道具の用意もでき、コマセも作った。実釣、しかも記念すべき“離島での釣り”である。勇んで投入・・・まあ、いきなりアタリがくるわけがない。しばらくして仕掛けを上げるとエサがない。付け直して再投入。
 この時に私はアタリウキ(チビた鉛筆くらいの大きさのウキ。これで魚のアタリを取る。)の色が黄色のものを選んだのだが、これが失敗だった。晴天で眩しい上に足場が高くて遠いため、見えないのである。3投目に入る前に赤いウキと交換して投げた。コマセが散った真中に針が落ちた。理想的な状態である。追加でコマセを、これまたS司氏が見たら卒倒するか「海洋汚染するつもりかっ!!」と叫ぶか、というくらいに投入した。最後のコマセが海中に沈んでいく様子が見て取れた、そのときである。ウキが水面に沈んだ。いや、沈んだなんてもんじゃない、いきなりピッ!と消えたのである。慌てて竿を煽って合わせた。
 ヒュッっと竿が発てる風切音とガツン!!という手ごたえ。掛かった。正体は不明だが、ものすごいヒキである。愛竿ダイワ・PRO磯1.2号ー5.4mが胴から曲がり、弓なりを通り越してまさしくアルファベットのUの字型に曲がる。今にも折れそうだが折れたら折れたで、その時に考えればよい。リールもドラッグ(強い力が糸にかかった時に、糸が切れるのを防ぐために自動的に糸を送り出す機能。)も最大の抵抗をかけてあるが、それでも糸が出て行く。後から聞いた話では、ここ三宅島の住人が使っている竿はオモリ負荷が3〜4号と私の竿よりも太い(硬い。)もので、リールもスピニングリールではなく、ドラッグ強度(糸を巻き取る力。)の強い両軸受けリールを使っていて、50cm以下の魚ならば、玉網を使わずに引き抜いてしまうそうだ。尚も出て行く糸を巻き取らなければならないので、ポンピング動作で巻き取るしかないと思い、魚に伸されかけた状態から竿を立てようとした。途端、軽くなった。竿も真っ直ぐになって糸も弛んだ。バレた(魚を逃がした)のだった。私は天を仰いで嘆いた・・・。まあ、嘆いても始まらない。それにしても何が掛かったんかいな?と思いながら、丸っきり軽くなったリールを巻いて、仕掛けを取り込んだ。
 戻ってきた仕掛けをチェックしてみると、波から受ける影響を最小限に抑えるために、ハリの15cmくらい上にガン玉を打った(1〜5mmの鉛製オモリ。球体か紡錘型で側面に切れ込みがあり、そこに糸を挟んで切れ込みを潰すと糸に固定される。別名をカミツブシという。これを取り付けることをガン玉を打つ、という。) のだが、そこから切れていた。どうやら、ガン玉を絞める時に、強く締めてしまったらしく、ハリスに傷をつけたようだ。私はミチ糸(通常は竿先からオモリまでの間にある糸のこと。この場合は、リールに巻かれた糸のこと。)先に結ばれた丸環(まるかん。糸と糸を結び合わせる部品。そのまま、細い金属線で作られた丸い輪っか。)からハリスを外し、スペアのハリを結びつけて釣りを再開した。ところが、である。
 何度か投入すると、アタリがある。もちろん合わせるのだが、当然空振りもある。しかし確かな手ごたえを感じて、やりとりに入るのだが、ハリスが細いことも手伝って場所は様々、ハリスがブチ切れる。場所柄、スレも小さいのでアタリの多さは良いのだが、やはりハリスが細すぎるのだろう。といっても、そんなに太いハリスは用意していない。現在の手持ちの物で号数の大きいものといったら、ナイロンの2号が一番太い糸である。これを巻くしかない。何しろ内地の釣りで掛かってくる魚とサイズが違うのか、とにかくパワフルである。日頃、力仕事をしている私だが、ちょっと気を抜くと竿ごと持っていかれそうな力で引くのである。内地とは仕掛けの構造はともかく、糸の番数を上げないと物理的に対応できそうもない。これで試してみた。オキアミを2匹掛け(オキアミの腹を合わせて針に引っ掛ける状態。)にして投入。エサ持ちが良いのでちょいと長めに待つ。
 しばらくしてチョンとウキが沈むが、すぐに浮いてくる。波のイタズラだろうか?続いて内地で釣っているみたいにウキが比較的、ゆっくりと沈み込む。はて・・・?竿の穂先を下げて糸を送り、じっくりと食わせると同時に、アタリを取るために竿を握りなおし、いつでも渾身の力が入るように備えた。
 次の瞬間、ガッツーン!!っと竿を持っていこうとするようなヒキ。合わせるどころか向こう合わせ(魚が食ったことで、自然とハリが刺さった状態。)になった。ドラッグを少しだけ緩めておいたので糸が切れることはなかったが、もんのスゴイ、力で引きやがる。
 一般的に磯に生息する魚は、その身に危険が及んだときには礒岩の隙間や岩の下に潜り込もうとする性質がある。もし潜り込まれれば頭から逃げ込んでエラやヒレを広げて突っ張り、梃子でも動くか、と言う状態になってしまって処置なし。釣り人の負けである。そうならないように竿を煽って、巻き寄せる。巻いては糸を引き出され、引き出されては糸を巻く。それでも魚の姿は見えない。
 海面から足場まで5m前後。そこから海中を覗き見ても、海底の様子が岩なのか砂なのか藻場なのかが判る透明度なのに、魚の姿が一向に判らないのである。これは厄介だ。感覚的には20分近くも格闘していた。ようやく足元に魚が寄ってきた。足元から海面を覗き込んだ私の目に飛び込んできた魚体は、顔は黒いが体は白黒のゼブラ模様。ん?ゼブラ模様・・・?
 私が掛けた魚はイシダイである。磯釣り師あこがれの『磯の大者』である。海面から遠いので小さくは見えるが、それでも30cmは下らないだろう。そいつが私の竿にかかり、奮闘するも力尽きて、私の足元にいるのである。はやる気持ちを落ち着けながら、私は玉網を手にして、その柄を一気に突き伸ばした。イシダイ目掛けてシュッっと伸びていく玉網。しかし問題が発生した。届かないのである。玉網が伸びきっても海中に入るどころか海面の上2mくらいの空を切るだけである。どうやって取り込もう・・・?
 しゃがもうが岩場に伏せようが届かない。押し寄せる波を使おうとするが、こういうときに限って波がこない。悪戦苦闘しているとイシダイがブルッっと身を震わせ、そして波間に消えていった。私はボー然とするしか術がなかった。
 落胆したまま仕掛けを上げてみる。魚が掛かってないのだから当たり前であるが、さっきまでの手ごたえがウソのようである。上がってきた仕掛けを手にとって見てみると、針がフトコロ(糸が結ばれている部分の直下。ちょうど糸の結び目の下の、ハリが曲がり始めた部分。)から折れている。正確には食いちぎられている。イシダイは硬い歯と強いアゴを持ち、ウニやサザエ・アワビをエサとして、それらを殻ごとバリバリと砕いて食う魚である。私の掛けた30cm前後のイシダイと言えど、その歯とアゴの力たるや、百円ショップで売られているペンチやニッパーよりも強固・堅牢であろう。タメ息交じりで針を交換して、更にチャレンジである。その後、アタリは何度もあるのに、合わせるとナイロン2号のハリスでも切られてしまうので、遂にコイツを結ぶことにした。呉羽化学工業の『シーガーマックス・1.7号』、フロロカーボン樹脂でできたハリスである。
 これは比重はナイロンよりも値段が高く(概ね4倍)て、重いので沈み込みが早く、水に浸けると劣化が早くて一日使えば使い捨てとなる欠点があるが、ナイロン素材の糸よりも伸縮性が小さくて、同じ糸の太さでも破断を起こすまでの引っ張り強度が2倍高いという利点がある。つまり1.7号ということは3.4号(釣り糸的には3.5号)に相当する強度を持つ糸である。これを結んでアタックした。
 アタリがある。合わせた。今回も相当なヒキの強さである。もう心配することはない。強引に竿を立てたらまた、糸が切れた。今度はリールに巻かれたミチ糸だった。これはナイロンの3号を巻いてある。ハリス強度よりも道糸が切れたのである。しかもミチ糸に打ったガン玉の部分で、である。
 もう糸を結んであるスペアの針はない。時刻は11時40分、釣っていられる時間は12時まで。撤収の時間を考えたら、あと10分がいいトコだろう。私はフローティングベストのポケットをゴソゴソと漁ってみた。果たしてあった。
 既製品の糸付き針、グレ針ではなく3号のチヌ(クロダイ用の針。ちなみにグレとは西日本方面でのメジナの呼び名である。)針で、ナイロンの2号糸が結ばれているのが出てきた。もうこれしかない・・・。私はこれを取り出して結びつけた。
 コマセを盛大に撒いたおかげで魚がたくさん寄ってきたものの、頼みのコマセが、もう一回分、ケチって2回分しかない。付けエサも選び抜いて5投分くらいだろうか。どっちにしろこれで終わりである。私は慎重に仕掛けを投入した。どちらかといえば遠投ではない。ポチョンと足元に落としてみた。
 阿古、というか三宅島はドン深(陸地から海に入るといきなり深くなっている地形。離島を除く、日本国内で最たるドン深の場所は富山湾。)であるから磯岩の際、磯に打ち付けている波の砕ける場所でも海底までは見越し5mはある。自然の状態で伊豆半島駿河湾静岡県側)でも陸地からいきなり5mも落ち込むところはあまりない。十分にタナ(魚が生息する水深域。釣りは狙う魚の食べるエサ・魚がいる場所・水深域を見つけるのコツ。)も取れる。一発だった。
 合わせて針掛かりをすると、やはりパワフル。だが、さっきよりも相当に軽い。前出のS々木氏の冷めた表情で言う「その竿なら抜ける(本命だが玉網を使うこともないような小物。)よ。」というセリフを思い出す。ハリスはナイロンの2号だが、抜き上げられる魚の重さと糸の番手の関係は『1kg、1号』だという。つまり釣った魚の重さが1kgならば糸が1号でも大丈夫だ、ということである。そしてこのヒキは、今日一番の軽いヒキである。私は一気に引き抜くことにした。
 糸が切れることもなく上がってきた魚は18cmのメジナ。この地では小さい、木っ端メジナである。針もない、持っている糸も対応できない。そして上がったのが木っ端である。時間もない。これよりもデカいメジナが散々上がっている状況で、これをもって帰るのは恥を曝すだけである。何しろ30cmオーバーのものでも小さいと言われてしまうような状況である。
 私は今上げたメジナの傍らに自分の吸っているタバコのパッケージを投げ置き、証拠の写真だけとってリリースした。これでとにかく、三宅島での釣りで、ボウズ(何も釣れないこと。オデコともいう。)は免れた。こうして三宅島初の釣りは幕を閉じたのだった。